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自己破産と郵便物|破産管財人への転送で知っておくべきこと
自己破産をするには、一定の制約を甘受しなければなりません。
「制約」という表現は大袈裟かもしれませんが、自己破産をした場合に生活上一定の不便さを強いられる一例として、破産者宛の郵便物の破産管財人への転送が挙げられます。
今回は、自己破産の際の郵便物の転送について詳しく解説します。
1 郵便物に関する規定
自己破産した際に、破産者宛の郵便物の取り扱いに関する規定としてまず出てくるのが、破産法81条1項です。
破産法第81条1項
裁判所は、破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるときは、信書の送達の事業を行う者に対し、破産者にあてた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条及び第百十八条第五項において「郵便物等」という。)を破産管財人に配達すべき旨を嘱託することができる。
破産法第82条1項
破産管財人は、破産者にあてた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができる。
破産法第82条2項
破産者は、破産管財人に対し、破産管財人が受け取った前項の郵便物等の閲覧又は当該郵便物等で破産財団に関しないものの交付を求めることができる。
⑴ 同時廃止の場合
郵便物の破産管財人への転送は、「破産管財人の職務遂行のため」の措置であり、当然のことながら、破産管財人が存在することが前提ですから、そもそも換価して債権者に配当すべき財産がなく、また免責不許可事由の疑いもなく、破産管財人が選任されない同時廃止手続の場合は、郵便物の転送という問題は生じません。
⑵ 管財事件の場合
一方で、破産者に財産があり、これを換価して債権者に配当するために(また免責不許可事由の調査のために)破産管財人が選任される管財事件の場合には、法律上、「破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるときは」と定められている通り、破産管財人に破産者宛の郵便物の転送を行なうことを原則としています。
⑶ 郵便物転送の影響は限定的
郵便物が破産管財人に転送されるということは、郵便物が破産者本人の手元に届くまで通常よりも時間がかかることを意味しますので、たしかに、日常生活を送る上での不便さを強いられる制度ではあります。
しかし、実際のところ、緊急を要する郵便物というのはそれほど多くなく、郵便物の転送が日常生活に与える影響は限定的とも言えます。
どうしても直ちに対応しなければならない郵便物があるのならば、予め破産管財人にその旨を伝え、破産管財人の手元に届いた時点で連絡を貰った上で、自ら管財人のところへ郵便物を取りに行く、代引きで送って貰う等の対応を取ることも考えられます。
- 【自己破産手続き中も家族の郵便物には影響なし】
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破産管財人に転送されるのは、あくまで破産者本人宛の郵便物に限られます。
郵便物については、自己破産をしてもご家族の迷惑になることはありません。
2 自己破産で郵便物が転送される期間
では、どの位の期間、郵便物が破産管財人に転送されるのでしょうか?
転送が始まるのは、「破産手続開始決定」から、終了は、破産手続の終了時です。
破産法81条3項
破産手続が終了したときは、裁判所は、第一項に規定する嘱託を取り消さなければならない
管財事件では、自己破産を申し立てることにより、破産手続開始決定となり、破産管財人が選任されます。
この時点から、破産管財人への転送が開始されることになります(ただし、破産手続開始決定の時点で初めて、転送のための手続が執られるので、現実に転送が開始されるのは、開始決定の数日後からです)。
その後、債権者集会が纏まり、配当がなされると、破産手続は終結し、破産管財人が財産を隠していないか確認できた時点で転送はストップし、その後、免責に関する決定となります。
郵便物が転送される期間は一律ではなく、自己破産の申立人の状況次第です。
事件が簡単で、申立人に隠し財産について疑いが生じなければ、開始決定から2~4か月程度で終了するでしょうが、複雑で、隠し財産が疑われる事案では、これより長期化することもあり得ます。
3 自己破産手続中に転送される郵便物の種類
自己破産により破産管財人に転送される郵便物は、原則として「信書」です。
「信書」とは、郵便法及び信書便法によると「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」とされ、総務省のHPによると、信書の具体例として書状、請求書、会議招集の通知、証明書、一部のダイレクトメールが挙げられています。
参考リンク:総務省・信書のガイドライン
したがって、郵便局で送る手紙、ハガキ、レターパックは、信書を郵送することができるので、転送されてしまいますが、他方で、「ゆうパック」、「ゆうメール」は、信書を送ることができるので、転送されないことになります。
また、ヤマト運輸や佐川急便などの宅配便も、転送されません。
ただし、事案によっては、「荷物」が転送の対象となるケースもあり、その場合は、これらのものも転送されることになります。
4 郵便物の転送で財産が発覚することも
転送された郵便物を破産管財人が開封することで、破産申立時に未申告であった財産が発覚することもあり得ます(ここでいう財産には、プラスの財産もあれば、マイナスの財産=負債(一覧表にない債権者の存在)もあり得ます)。
「信書」の例示にもあった通り、請求書も転送される郵便物に含まれます。
領収書や契約書も郵送されれば転送の対象です。
そこから、未申告の財産が発覚するのです。
破産者名義の財産を意図的に隠して破産手続に入ってしまったら、資産隠しとして免責不許可事由に該当します。
郵便物の転送は破産管財人による財産調査に一定の効果を与えます。
破産管財人は、免責に関する調査も行うので、意図的に財産を隠して破産手続を終わらせるということは非常に困難ということです。
5 自己破手続きで転送された郵便物の返却
自己破産手続を進める中で重要な郵便物が破産管財人に転送されることもありますが、やはり大半は破産手続に関連のない郵便物です。
破産手続きに関連がなければ、破産管財人が所持していても意味がないので、破産者本人に郵便物を返却してくれます。
返却方法は、破産管財人によっても異なりますし、具体的な事情によっても異なりますが、一般的には、破産管財人が、「一定の郵便物が溜まったらまとめて郵送で返却します」というケースが多いようです(郵送にかかる費用は破産者の負担になります)。
しかし、郵送で破産者に返却するにしても、破産管財人が発送したことが分からない限り、郵便局は、もう一度破産管財人にその郵便物を届けてしまいます。
そのため、破産管財人からの郵便物については、破産管財人が発送したものと分かる文言が封筒に記載されてしまいます。
その結果、家族に内緒のまま破産申立をしたケースで、そのような封筒を家族に見られたことで、家族に破産手続の事実が露見してしまう、という事態も考えられます。
中には、「破産管財人が発送したと分かる郵便物が届くことは避けたい」ということで、自宅から多少距離はあっても、破産管財人の事務所へ直接取りに行く破産者もいます。
6 自己破産のご相談は当法人へ
法律上、破産者に制約を課すケースというのは、やはりそれなりの理由に基づいています。
もっとも、その制約は日常生活に大きな不便を強いるものであることは滅多にありません。
さらに、事前に制約のことを知っていれば、不便さを感じる場面を極力減らすこともできます。
不安や心配事がある場合には、やはり専門家に尋ねてみることをお勧めします。
藤沢やその周辺にお住まい、お勤めの方で、自己破産を始めとした債務整理をご検討の方は、当法人でご相談ください。
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